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掌シリーズ

氷の国に住む私の掌は冷たい。氷点下の指先は触れるものみな凍りつかせてしまう。今まで幾人かいた私の恋人たちも、それまで優しかったのに手を繋ごうとすると途端に、まるで触っちゃいけないものに触ったかのような反応速度で即座にその手を引っ込めるのだった。
だから私は炎に恋する。身を捧げる薪になりたいと思う。もしくは彼に焼かれるハムや、ベーコンになりたいと願う。…うそだ。ほんとうは、手を繋いでみたい。火傷したって溶けてしまったっていい。一瞬でもいいからこの掌が熱を帯びるのを感じてみたい。
でも彼は「だめだよ」と言う。橙の髪をちらちら揺らしながら微笑む。「だめだよ、だめだよ」夢のように響く彼の声を心地良く思いながらも、私はその幻想を捨てられずにいた。だってもしかして、私の冷気と彼の熱気が混ざり合ってぬるまって、きちんと手を繋げる、そんな奇跡が起きるかもしれないじゃない?

****

炎の雨が降った日、橙に輝く夜空は真昼のように明るかった。見惚れていた僕は腕に火の粉が降りかかっているのにもしばらく気が付かなかった。しかし驚くほど熱さを感じないのだ。皮膚が爛れている様子もない。ちらちら光る火は舞い降りたかと思うとすっと肌に溶けて見えなくなって、後は静かに僕の腕で燃えているだけなのだった。炎はすぐに全身に回った。痛みはない。燃え方も暖炉の火のように落ち着いていて、普段は普通の人と変わりはない。だけど何かに触れると途端に、僕の皮膚は燃え盛ってしまうのだ。
みんなが行け、行けと言うので、皮膚科に行って相談した。炎症専門の皮膚科らしい。「ひどいね」と医者は首を振った。「治らないんですか?」僕はなんとなく尋ねる。すると一つだけ治す方法があると言う。それは涙を流すこと。
それを聞いても僕は何もしなかった。特段不便さを感じていなかったからだ。むしろ風呂を焚くのも目玉焼きを焼くのも身一つでできるものだから以前より便利なくらいだ。恋人と手を繋ぐことすらできないけれど、でも、涙を流すくらいだったら、恋人なんて必要ないと、僕は思うのだった。

****

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