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2.空色の少年/12.可愛いユーレイ

パパとママはいない。交通事故で死んじゃった。ありがち。それでその事故で、私も怪我をしたの。なんとか助かったんだけど、足が動かなくなっちゃった。車椅子生活。これもありがち。親戚のおじさんおばさんみんな、私のことを面倒くさがって引き取ってくれなかった。面倒くさいよね、分かるわ。自分の子供でもないのに、いちいち車椅子を押したりしなきゃならないなんて。だから私、いいよって言ったの。一人でいいよって。でもそれは可哀想って思ったのかな。みんなお手伝いさんとか雇ってくれて。お金があったのよね、きっと。遺産ね。それで一人で屋敷に住んでたんだけど、ある日病気になって。でもね、病院に行くのはもう死んでも嫌だったの。家で我慢してたわ。そしたらうっかり、死んじゃった。ほんとに。ありがちよね。もうね、カワイソーとか、いいの。もう何年も前のことだし。でもなんでか、成仏できずに、未だに私、この家にいるの。管理する人がいないから荒れ放題。誰もいないから暗いし、蜘蛛の巣はっちゃって、カーテン絨毯破れて、窓も気付けば割れてるし。お庭は草ボーボー、立派だった門も開け閉めすると悲鳴みたいな音立てて軋むわ。近所の子供が肝試しに来てたっけ。なんにも出ないし私だってなんにもしてないのにワーワー騒いで帰ってったわ。失礼しちゃう。
私いつも、自分のだった部屋の窓辺にいるの。立てないから座ってる。外見てるわ。たまーに歩いてる人と目が合うの。いるのよね、「見える」人って、ごくたまに。びっくりした顔で目をこすったり、青い顔したり、慣れてるのかまたかって嫌な顔して去って行く。退屈だわ、誰も私に構ってくれない。早く成仏すればパパとママに会えるのかな。もう顔もろくに思い出せないんだけど、優しくしてくれるかしら。ああなんで成仏できないのかな。好きな人も友達もいなかったのに。未練といえばそうね、それかな。恋くらいしてみたかったわ。道行くカップル、何人も見てきたけど、みんなとても楽しそうなんだもの。

ある日変な子を見たわ。いつものように外見てたんだけど。目の前をすっと横切ったの。変でしょ、ここ2階だもの。そう、男の子。いたってフツーの。トコトコ歩いてた。空の上を。そうとしか言いようがない、全くの空中をフツーに歩いてたの。私と同じ、ユーレイ? よく分かんないけど。人間ではないかな。私のこと見えるかなって思って声かけた。
「ねえ、」
その子はこっちを振り向いた。やっぱし。
「なに? ぼく急いでるんだけど」
その子はそんな風に言う。こんな可愛い女の子が話しかけてきてるのにそんな言い方ってないじゃない? 私は不機嫌そうに顔をしかめたわ。
「あんた誰? なんで空を歩けるの?」
ユーレイ? と、聞いてみた。そうだよと答えてくれるのを期待したかもしれない。だけどその子は「似たようなモンかな」と曖昧な返事を寄こした。
「君はユーレイだね」
「そうよ。悪い?」
ちょっと喧嘩越しに答えるけど、その子は気にも留めない様子で、空中から話しかけてくる。浮いてるわけではないらしい。足元はしっかりしている。
「なにしてんの?」
「外見てる」
「楽しい?」
「ぜんぜん」
「だと思った」
皺寄ってるもん。その子は笑って額を指差してみせる。私は恥ずかしくなって、急いで自分の眉間を隠した。
「はやくパパとママに会いたい」
おでこを隠したまま、思わずそんなことを口走ってしまったことに私自身がびっくりする。そんなに会いたがってるなんて思ってもみなかった。私が。
「会いに行けばいいじゃない」
その子はなんでもなさそうに言う。
この上、とその指が遥か上空を指差す。天国だもん。
「歩いてけばいい」
こんな風に。その子は軽い足取りで空中を上がったり下りたりしてみせた。見えない階段があるみたい。私は目を見開く。
「…それ、私にもできる?」
そっと囁くと、できるさと案外大きな声で返事をされた。元気の出る、背中を押すような声だった。
「でも…むりだわ」
「どうして?」
「だって私歩けないんだもん。車椅子で天国まで、行けないでしょ」
私は自分の足を見下ろす。ユーレイになって、透明になっても変わらず動かないこの足。役立たずの細い足首。
「歩けるよ!」
びっくりして私は顔を上げた。さっきより大きな声だった、不意に大声を出す子なのね。その子はおかしそうな顔をしていたわ。
「だって君、ユーレイなんだよ? カンケーないよ! 歩けないって思ってるだけだよ」
やってごらんとその子が言うので私は恐る恐る立ってみようとした。腕に力を入れる。足の裏を床につけようとするけど、感覚がないように思うのでうまくできない。気付くとその子が窓辺まで近付いてきていた。ガラスのなくなった窓の、窓枠に降り立って、私に向かって手を伸ばす。あ、と思った。晴れた光が逆光になって、その子の肩から漏れ出す。王子様みたい、と思って。その手を取る。すると魔法みたいに簡単に、立てた。何年ぶりだろう。ふわっ、と浮き上がるような感触だった。
「ほらね!」
その子が笑う。なんて素敵な笑顔なんだろう。空色。そう、空の色みたいな顔で笑うのね。釣られて私も笑ったわ。笑いながら二人で、天国への階段を登って行ったの。空中を歩くのは、風が気持ちよくって、とっても楽しかった。生きてるときより、ずっと楽しかったわ!

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