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2.空色の少年/8.きらきら

小さい頃、神様を見たことがある。誰も信じてはくれないが、確かにあれは神様だった。

空が好きな子供だった。青色が好きなのかなんなのか分からないが、いつも空ばかり見上げては転ぶので母親にはよく怒られた。雲の形、いつも違う。わたあめみたいな雲。羊みたいに小さくたくさん泳ぐ雲。青い画用紙に白をつけた筆で、シュッと描いたような雲。あれがなんに見えるか、なんの形なのか考えるのも好きだったし、もくもくと厚い雲の向こうには何があるのか想像するのも楽しかった。風に流されて雲は動く。青の濃さだって、毎日違う。いつまでだって飽きずに見ていられた。どうしてみんなが空を見ないのか不思議でしょうがなかった。どうして下を向いて、忙しそうに早足で歩いているのか分からなくて、なんとなく、ああいう大人になりたくないなあということを思っていた。

ある日のこと。いつものように空を見ていると、不意にきらきらしている一角があることに気付いた。いつからだろう、一瞬前にはなかった気がする。目をこすってみたけれど、確かに空の一部が、きらきら輝いている。上空の彼方から、きらきらが、下りてきていると言った方が正しいか。ずうっと見上げてみてもきらきらの始まりは見つけられない。だけど終点は見つけられそうだ、地面まで下りてきている。私は走ってきらきらを目指した。何故走ったのか、そのきらきらはいつか消えてしまうものなんじゃないかという予感があったのだ。
なんでもない、見慣れた街の一角だった。空き地らしい。フェンスで立ち入りが禁じられてる。私は緑のフェンスを掴んで、きらきらをじっと見つめた。胸を押さえるとドキドキしている。いつもの光景なのに、何故だか、いつもと違う空気を感じる。空から下りてきたきらきらは辺りに清潔な空気を振り撒きながら、静かに雑草の影に消えている。きらきら、きらきら。揺れる光の束は細く、梯子みたく風に揺らいでいた。
あっ、と私は声を上げそうになった。フェンスの向こう。きらきらの隣に、人が立っている。いつの間に? 全然分からない。目を逸らしたつもりはないのに。
それは少年だった。私とそう変わらないか、少し上くらいの。キャスケットを被ってサスペンダーをして、ブーツを履いている。ちょっと外国の子みたいな格好だけど、普通の男の子だった。少年はきらきらを見上げている。私には気付いていないのだろうか。ドキドキが収まらない。見てはいけないものなのでは? という思いがよぎったけれど、もう目を離すことなんて出来なかった。少年が動く。きらきらに触れる。少年はきらきらを登り始めた。手を伸ばして掴み、足を引っ掛けて。トンッ、トンッ。するする、軽快な動きで登っていく。少年の体重を乗せてきらきらが揺れる。やっぱり梯子だったんだ。私は見上げる。今日の空は雲一つない、まっさらな、青。ふと私は瞬きをした。また目をこすってみる。少年の靴が青色になっている。さっきまで何色だったか、覚えてないけれど、少なくともあんな目の覚めるような青じゃなかったはずだ。空と全く同じ色だから、まるで足だけ空に溶けて同化してしまったように見える。あれっ、帽子もそうだ。あれあれっ、と見てる間に服も青色になり、飛び出た腕や足までも空に溶けてしまった。ふっ、となんの音もなく、少年の全身が青になって見えなくなってしまう。もうどこらへんを登っているのか分からない。そのうち、きらきらもすーっと夢のように消えてしまった。
---神様だ。
私の心にそんな言葉が自然と湧き出る。
神様を見た。
押さえた胸はもうドキドキしない。代わりに、なんだかあたたかかったことをよく覚えている。もう少年もきらきらも消えた青い青い空を、日が暮れるまでいつまでも見つめていた。

あれは確かに神様だったと、俯いて早足で歩く大人になってしまった今でも、そう思う。

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