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21.桜色の人魚/24.泣き虫天使

雲のうえのかみさまの国。ただぼくはちょっとうたた寝をしてただけなんだ。それなのに、その、ベッドにしていた雲が、ほんのちょっと、うすかったみたいで。きづくとぼくは落っこちていた。…太ってたんじゃあないよ。雲がね、雲のほうが、うすかったんだ。空のうえからぼくはまっさかさま。羽根を広げるひまもなかった。
じゃぼんとぼくは落っこちた。水だ。いや、しょっぱい。海だ。地面じゃなくってよかったのかもしれないけど、ぼくは、泳げないんだ。だって雲のうえに海はないもの。ばたばた必死で水面をたたいた。鼻のなかに水が入ってきて、いたい。がぶがぶ海水をのんでしまいながら、たすけてたすけてとぼくは叫んだ。こんな海のまんなかで、だれも助けちゃくれないっていうのに。かみさまは、助けてくれないのか、って? かみさまはいま、とても忙しいんだ。六万ピースのジグソーパズルを完成させるのに、必死こいてるまっさいちゅうなんだ。そのうちぼくは気絶した。ふーっとめのまえが暗くなった。

きらきらと、まぶたのうらが眩しくってぼくは目を覚ました。それからおぼれてたことを思い出して、がばっと起きあがって手足をふり回した。だけど水なんてどこにもなく、代わりにとてもやわらかいものが顔にぶつかる。なぜだかそのときぼくは、とても幸せなきもちになったんだ。顔をあげる。すると、よく晴れた海上の青空のしたで、おねえさんがぼくを見おろしていた。淡い、ぴんく色の髪の毛に光が反射して。不思議そうにまばたきすると、澄んだ青色のひとみがうるんだ。まつげなんてすごく長くってさ。びっくりしてしまった。天女よりきれいなんじゃないかって。だけどおねえさん、何故だかびしょ濡れだ。髪の毛の先から水がしたたってる。服だって貝殻のビキニしか着てないし、とぼくはおねえさんのおしりのほうを見て、びっくりした。足がない。かわりに腰のあたりからエメラルドに輝くうろこに覆われていて、まるで魚みたいなヒレが、横すわりするみたいに石のうえに横たわっている。
「だいじょうぶ?」
鈴の鳴るような声だとおもった。その声を聞いたとたん、安心して、ぼくは泣いてしまっていた。涙が、ぼろぼろこぼれて、止まらない。はなみずも。わーん、わーん。腕のなかで大声あげて泣きだしたぼくに、おねえさんはびっくりしたみたいだった。こすっちゃあダメよと、どこから出したのかハンカチでぼくの鼻をかんでくれた。そのハンカチは白くってレースがついていて、とても良い匂いがしたけれど、ぼくの涙はやまなかった。
「何がそんなにかなしいの?」
おねえさんがたずねるので、ぼくはしゃっくり上げながらこたえる。
「お空へかえれない」
荷物でもせおってるみたいに、背中が重いことに、さっきからきがついていた。羽根がこんなに濡れているのじゃ、とても飛べやしない。かえれない、かえれない。かなしい、かなしい。するとおねえさんはあきれたようにため息をついた。
「ばかね、そんなのすぐに乾くわよ」
石のうえで寝転がって、ひなたぼっこでもしてれば、お日さまがかってに乾かしてくれるわよ。おねえさんはそう言う。
「そんなに泣いたらみっともないわよ。男の子でしょう?」
おねえさんがぼくに微笑む。ほのかに色のついたちっちゃな唇がお花みたいで、とってもきれいだと思った。ぼくは息を止める。息を止めて、必死に涙を止める。えらいねとおねえさんはぼくの頭をなでてくれた。うれしい。もっとなでてほしいとおもう。だけどおねえさんは不意に顔色をくもらせた。
「やだ、」
なんだろうとおねえさんの視線の先を見て、どきりとした。すーっ、と、海面をすべる背ビレ。サメだ。サメがいる!
サメはぐるぐるとそのあたりを回っているのだけど、だんだん近よってきている。まちがいない。ぼくを食べるつもりだろうか? それともおねえさんを? おねえさんはぎゅっとぼくを抱きしめた。やわらかいおっぱいがぼくを圧迫する。
「息を、しっかり止めているのよ。いい?」
言うが早いか、おねえさんはぼくを抱いたままどぼんと海のなかへ飛び込んだ。たくさんの泡がぼくの髪を逆立てていく。一瞬、パニックになりかけれたけど、すぐそばにおねえさんのぬくもりがあることを確かめてぼくはぎゅっとこぶしをにぎった。
海のなかには日がさしこんでいて、色とりどりの珊瑚や魚たちがいて、はじめて見る光景にぼくは目をみひらいた。だけどゆっくりしている暇はない。おねえさんは力強く尾を蹴って、すごいスピードで泳ぎだした。水流で、前を向くと目をあけていられない。たまらず横を向くと、顔がへんなかたちになっていくのが分かった。それでもいっしょうけんめい目をあけて、ぼくは後ろを振り返る。サメが、追ってきている! 細かな泡を立てて、ぼくたちの後を、まちがいなく追いかけてきている。ぼくは怖くってひめいを上げそうになったのを、あやうく口を手で押さえてこらえた。
「食べられはしないわよ」
おねえさんの声が、海のなかでもはっきり聞こえる。ぼくはおねえさんを見あげた。まじめな横顔だったけど、ちょっとこまってるようにも見える横顔だった。ぼくはきづいた。追いかけてきているサメが、なんか持ってる。ピンク、オレンジ、白、きいろ、色とりどりの珊瑚だ。ヒレいっぱいに抱えて、リボンをかけている。海の花束だ。よく見ればあのサメ、目が、ハートマークになってやしないか?
サメはおねえさんのことが好きなのだ。プロポーズしようとおもってるのだ。だけどこんなにいっしょうけんめい逃げてるのだ、おねえさんが嫌がってることはすぐにわかる。ぼくは、おねえさんには笑っていてほしいとおもった。困ってほしくない。笑ってる顔が、いちばんきれいなんだから。
ぼくはおねえさんに、海面に出てほしいということを身振りだけで伝えようとおもった。ただ上をゆびさしていただけだけど、伝わったらしい。おねえさんはぼくが息がくるしいのだとおもって、いそいで水面へむかっていく。もちろんそのぶん、サメは距離をつめてくる。
ぷはっ、とおねえさんの顔が海から出る。つづけて、ぼくも。止めていた息をはいて、すぐ新しい空気を吸う。目のしたで白い波が立って、照りつける日差しが頭にあたたかく感じた。ぼくはおもいきり息を吸い込んだ。そして、手のなかにトランペットを出す。ぽん、と音を立てて。ちっちゃいけど金色にかがやくトランペットだ、ぼくが唯一使える天使の魔法。ぼくはトランペットの先を海のなかに入れると、顔がまっかになるまで力いっぱい、吹いた。
ブオーン!
泡といっしょに大きな音が、海のなかに響きわたる。水中は、音の伝わりもいいだろう。ためしにもぐって確かめてみたら、花束をかかえたサメはあまりの音の大きさにびっくりして、気絶していた。目を回して、下のほうにただよっていた。

「ありがとう」
またぼくを石のうえに上げてくれて、おねえさんは言う。おどろいちゃった、キミってけっこうすごいのね。おねえさんはそう言いながら、ざばっとぼくの隣に上がってきて腰をおろした。乱れた髪の毛をとかして、ひとで型の髪どめをちゃんとつけ直す。りっぱな尾ヒレは夕日を受けて、青のような緑のような、きれいな色にかがやいていた。ふと、おねえさんが、ぼくが見つめていることにきがついてこっちを見る。にこりと微笑む。ぼくはおもわず叫んでいた。
「おねえさん、ぼくとけっこんして!」
すごく勇気を出して言ったことなのだけど、おねえさんは一瞬きょとんとして、それからおかしそうに笑いだした。うふふ、うふふ、とお腹をかかえて笑っている。おねえさんは目に涙まで浮かべながら、ぼくにこう言った。
「キミが、泣き虫じゃなくなったらね!」
そうしておねえさんはぼくのほっぺにチューをした。ぼくは、とびあがって、それで雲のうえに帰れてしまうかとおもったよ!

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