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2024/09/21 (Sat)
2013.04.03
23.白衣と鍵/50.ウソツキ
苦い香りがする。 目を閉じて、鼻をひくつかせてみた。 コーヒーの香り。ふわりと漂う湯気。ミルクなし、砂糖なし。ブラックコーヒー。タバコの香り。ハイライト。私の好きじゃない香り。顔をしかめる。前吸ってたセブンスター、あっちの方が好きな匂いだった。
カタカタと規則的にキーボードを叩く音が、閉じた視界の中に響く。カタカタ、パシャン。カタカタカタ、シターン。エンターキーを押すときの勢いが、だんだん強くなってきていることから、集中しているんだなと分かる。
カーテンが全開になった窓から惜しみなく午後の光が降り注いでいて、髪の毛をじわじわ温めている。いまは、茶髪だけど、染める前だったらもっと熱く感じていたかもしれない。いまは丁度いい。三月。外に出たらまだマフラーが必要だろうけど、日の当たる部屋の中はもう春だ。眠たくなってきた。頬杖をついていた肘が、だんだんずれていき、机に突っ伏す形になっていく。
ふと、カタカタ鳴る音が止んでいることに気が付いて私は目蓋を上げた。目の前が白く点滅するので、何度か瞬きをする。彼、は、パソコンに向かう手を止めてタバコを吸っていた。吸い込む音。ふーっ。吐き出す音。ほんの微かだけど、静かだから聞こえてくる。どきどきした。煙が漂ってきて、髪に匂いがつきそうで嫌だったけど、どきどきした。それ以上に。タバコをつまんだ指。慣れた手付き。ごつごつした大きな手。時計をした右手。光る指輪。
「何か、用があって来たんじゃないのか?」
ギシッ、と事務椅子が回る音にはっとして思わず俯いた。見つめすぎた。彼は私の方に向き直りながら、白衣のポケットをまさぐっている。ライターを探してるんだろう。(胸ポケットだよ、)と私は思う。彼の手が胸を叩く。あったようだ。真新しいタバコを口にくわえ、火をつける。カチン。銀色のライターの蓋が音を立てて閉まる。
「カギ、」
と、私は唇を尖らせて、言う。
「カギ、ちょうだい」
先生。呼ぶ。センセー、の方が、正しいかも。語尾をバカっぽく伸ばした。彼はああ、と言っていつものように立ち上がる。3年1組。から、3年9組。他にも、理科実験室だとか、準備室だとか、資料室とか。いろんな鍵がいろんな色、赤や黄色や青、のプレートにくっついている。教室の鍵なんて誰がつけるのか、キティだとかプーのぬいぐるみキーホルダーがついてるものだってある。
「どの鍵だ?」
くわえタバコのまま、彼は当然問いかける。私は全く表情を変えないまま、そらで言った。
「グランドメゾン杉並201号室」
彼は、黙った。そのタバコを落っことしたりはしないんだろうかと期待したけれど、火のついたタバコは彼の口から離れない。静かに煙が漂っていた。
「…悪い、」
彼は、ぱ、と両手を上げてみせる。開いた掌。何も持ってないよの印。おどけてるつもりなのか。
「今日は忘れてきちゃった」
だから、また今度。彼の手が私の頭を撫でた。わしわしと髪を乱す。その温もりを振り切るように、私はがたんと立ち上がった。
「…そう、」
あっさり、なるべくあっさり呟いて、後も見ないで職員室を飛び出した。走る。走る。白い廊下を。がむしゃらに。踵をぺしゃんこにした上履きがワックスの光る廊下に滑って、変な音を立てる。短く折ったスカートが翻る。毎朝アイロンをあてててる髪の毛が口の中に入る。構うもんか。そのうち私は立ち止まる。ここがどこか分からない教室の前でうずくまる。
ウッ、と嗚咽が漏れた。とげとげした想いが喉の奥につかえて、苦しい。ウ、エ。熱い涙が滴る。耐え切れない。声が出てしまう。苦しい。吐きそうだ。制服の袖を引っ張って、口を抑える。お腹も痛くなってきた気がする。じわ、じわ。涙が少しずつ溢れて、頬を伝っていく。こんなに苦しい泣き方をしたのは初めてだった。でも、泣いてしまわないと、もっと辛かった。心臓がちくちくする。
ひどい男だ。ヒドい人。そんな気、ないくせに。忘れてきちゃったなんて、そんな、じゃあ先生、今日どうやって家に入るの? 誰か、中に、いるの? ウソツキ、ウソツキ。
「うそつき」
私は呟いた。音にするともっと悲しかった。窓から見える桜の枝には蕾がふくらんでいる。春の気配。明日は、卒業式だ。
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2013/04/03 (Wed)
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