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47.電波塔の姫君/69.時計屋のウサギ

ぐりぐり目玉の御姫様、ピンクと水色のどぎついドレス。変わり者だけど歌は御上手。みょんみょん歌うとその歌声が、電線伝って電気に成る。電波塔の姫君。
だけど或る時ぱたりと歌声が止んだ。喉の調子が悪くって電波が悪いことは有ったけど、ぴったり聴こえ無くなったのは初めてだ。皆困った。真っ暗だ。パソコンだって見えやしない。
其れとは関係無く、時計屋の男が電波塔まで来て居た。男のあだ名はウサギと謂う。ぴょんぴょん矢鱈何時も飛び跳ねるように歩くから。ウサギはとても大雑把な性格で、その実電気が止まって居ると言う事にすら気付いて居なかった。只、塔の天辺から或る音が聞こえた気がして、其れで気になったのだ。
ウサギはぐーっと膝を折り曲げる。其れから、地面を強く蹴ってぴょーんと高く跳躍した。あっという間に姫君の部屋に辿り着く。窓から行き成り入って来た男に、姫君は大層驚いた。
「どなた?」
「ウサギです。職業は時計屋。」
「何故此処へ?」
「涙の落ちる音が聞こえた気がして」
ウサギは仰々しく礼をして、何処かで聞いたような台詞を吐く。姫君は怪訝そうに頬を拭った。
「聞こえたの? 下から?」
「御嬢さん、私はウサギです。耳が良いのがウサギです。」
「あらそう。でも余計なお世話だわ。もう泣いて居ないもの。」
気丈な台詞を吐く姫君に、ウサギはゆるりと笑ってみせる。
「時に、如何して歌って居ないのです。」
「如何も斯うも無いわ。歌いたく無いのですもの。」
「何か遭ったのですか?」
「何も。」
「失恋?」
「失う恋が無いわ。如何と言う事も無い、只のワーカホリックよ。」
姫君はそう言ってひらひらと手を振ってみせる。もう構わないでの印だったのかも知れないが、ウサギは逆に窓枠にどかりと腰を下ろした。
「気分転換でもしたら如何かな」
何せ姫君が座り込んで居る此の部屋は殺風景に過ぎる。薔薇の刺繍の絨毯を敷いて、白いレェスのカーテンを引いて、大きなクマの縫いぐるみを置いたら如何かと言う。姫君は整った眉を寄せた。
「面倒なら全て任せてくれても良いですよ、私の趣味で宜しければ」
「何故其処までするの?」
「何故って、貴女の歌声が無いと皆困る。私も困る。」
「貴方、時計屋でしょ」
「御嬢さん、電波時計と謂う物が有る、」
成る程ねと姫君は呟いた。遣ってくれると言うのなら悪い気はしない。其れに、ウサギの提案した装飾は、姫君の好みにも合う物だった。
「他には何か遣ってくれないの?」
そうまでして呉れると言うのなら、姫君の方にも段々欲が出て来る。ずずいと前のめりに成りながら、強請る。ふむ、とウサギは顎に手を当て呟いた。其れから靴音を鳴らして姫に近付き、その白魚の如き手を取る。
「?」
不思議そうな姫を余所に、ウサギはぱっと姫君を抱きかかえて窓を開けた。
とんっ
軽く桟を蹴る。姫君のドレスが風を受け入れて、風船のように膨らむ。悲鳴を上げる間も無かった。
「何処へ行きましょう?」
とっ、とっ、とウサギは家々の屋根を渡り歩く。姫を横抱きにした儘。姫君の豊かな髪が靡いて行くのを、小鳥が驚いたような顔で見て居た。
「何処へでも御連れ致します!」
姫は今にも落っこちやしないかと冷や冷やしていたのだが、ウサギが余りに嬉しそうに言う物だから、此方まで嬉しくなって来て居た。
「遊園地に行ってみたい」
姫はウサギの胸元でそっと囁く。
「メリィゴーラウンドと謂う物に乗ってみたいの」
ウサギは口の端で微笑んだ。
「合点承知」

其れから二人で色んな事をした。メリィゴーラウンドにも勿論乗ったし、ジェットコースタァや珈琲カップにも乗った。アイスクリィムと謂う物も食べたし、観覧車で夕陽も見た。すっかり陽も暮れた頃、漸く二人は電波塔に帰って来て居た。
「楽しかったわ」
「其れは良かった」
「有り難う」
「礼には及びません」
「………」
「御部屋の手配は後日して置きます。其れには電話をしたいので、出来れば歌声を聴かせて頂けると有り難いのですが」
「…難しいかもしれないわ」
ウサギは驚いて姫君を見る。此れだけしたのに、と謂う気持ちが有ったのかも知れない。其れに、あんなに生き生きと楽しそうに笑って居たのだから。合点が行かない。
「何故?」
「何も手に付かないかも知れない」
「失恋?」
「其の逆よ、」
姫君の、スカイブルーの瞳がウサギを貫く。じっと潤んだ真摯な瞳。心射抜かれない訳が無い。御心配無く、とウサギは頭を垂れた。
「又直ぐ跳んで来ます。何度でも。」
「御迷惑じゃあ、無いかしら?」
「飛んでも御座いません」
ウサギは恭しく姫の手を取る。
「私は最初から、貴女に恋をして居ましたよ。」
姫君の頬が薔薇色に染まった。

其れから、塔から電波の途切れる事は二度と、無くなったそうだ。

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