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88.手を繋ごう/42.花びらの教会

リンゴーン、と錆び付いた音が響く。間があってもう一度、リンゴーン。 年老いた神父の鳴らす鐘が辺りに響き渡る。少年と少女は揃って顔を上げた。風が吹いて、花弁が一斉に揺れる。
一面に白い花の咲き誇る丘に、その教会は立っている。背後には海を臨む崖。美しいが便が悪いので訪れる人はあまり多くない。老神父が一人で管理している。
子供たちは捨て子だった。神父は二人を引き取り、平等に育てた。そのことだけでも彼は立派な人間だということが分かる。少年の方は普通だが、少女の身体的特徴を見た大抵の人は、石を投げるのだから。
夜の闇のように美しい髪の間に、何かが覗いている。突起。いや、角だ。まだ小さいが、羊のように曲がりくねった二本の角が生えている。背には膜の張った、コウモリに似た黒い翼。やはりまだごく小さなものなので飛べはしないが、年々着実に大きくなってきていた。瞳の色は赤く、一目で異形と分かる。
少女は悪魔だった。
けれど神父は、幼い頃から教育すれば人の言うような悪魔にはならないだろうと考えていた。それに彼女は見た目こそあからさまに「そう」であったけど、それ以外は力が強いだとか超能力があるだとかそういうことも一切なく、全く普通の子供と同じだったのだから。
少女はころころとよく笑う女の子に育っていった。
少年は生まれたときから一緒の彼女のことを、差別する気持ちは全くなかった。少女の角や翼も、さして気にしていない様子だった。少年は手先が器用で、教会の周りにあり余るほど咲き誇る花を摘んではよく少女に花冠をプレゼントした。たぶん、少女のことが、好きだったんだろう。柔らかい白花で作った冠は、少女の黒い髪によく映えた。
ある日花畑の真ん中で少女は悪戯っぽく瞳を輝かせながら、少年に言う。
「ねえ、違う花の冠が欲しいわ」
そうは言っても、ここにはこの白い花しか咲いていない。遠くに行けばあるだろうが、丘から出ることは神父から禁じられていた。出る必要なんてないのよ。少女は囁く。強い潮風が、二人の髪を巻き上げていく。
「教会の裏に崖があるでしょう。あの崖に、見たこともないきれいな花が咲いてるの。」
少年は、少女がそう言うのならすぐにでも取って来てあげたかった。それにその花はこの白い花よりも花弁の数が多く、葉の形も違い、しかも瑞々しい赤色であるという。それを聞いて少年の心は躍ったけれど、でも、と躊躇う。何しろ断崖絶壁だ。下は荒波が押し寄せる尖った岩。とてもそんなところ、行けやしない。人間ならば。
「大丈夫よ、」
私が連れてってあげると彼女は言う。神父には隠していたが背中の羽根はもう短い距離なら飛べるのだという。少年の体を抱えて飛ぶから、と少女は提案する。それならば自分で取ってくればいいのではないか、とちらりと思わないではなかったけれど、少年は舞い上がっていた。「一緒に、行こう?」なんてそっと呟いて、手を繋がれてしまっては。少年は少女の手をぎゅっと握り返して立ち上がる。
「いいよ、」
悪魔の少女は赤い瞳を、三日月のように細めて笑った。

「うれしいわ」

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