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5.なんて素敵な人/82.約束

「なんて素敵な人!」
彼女はおれのことをそう言う。頬に手を当て、目をうっとりさせながら言う。おれはすこし、困る。
『素敵な人』なんておれには似合わない。何しろ毛むくじゃらだ。頭にそそりたつ二本の角は、仲間内では自慢の種になるけれど他種族からすれば恐ろしく映るだろう。鼻息も荒い。「くさい」と言われたこともある。美しい手だって持ってない。あるのは不器用な蹄だけ。畑を耕す力はあるけれど、舞踏会に出る気品も繊細さもない。きれいな服だって持ってない。この青いチョッキがせいぜいだ。
だけど彼女はおれのことを「素敵だ」と言う。「素敵な人」というのはむしろ、彼女のことなんじゃあないのか。おれが持ってないものをみんな持っている。絹のような髪に白魚のような手。可憐な唇。まるで宝石、いや、一輪の花のようだ。おれは、握り潰してしまうのが怖くて、触れられない。
だけど彼女の方は遠慮なくおれに触れてくる。腰に手を回してぎゅうぎゅう抱きついてくる。ちくちくした胸毛に頬ずりして、ふふふと吐息を漏らしている。
「ねえ、いつになったら抱きしめてくれるの?」
彼女は可愛い口を尖らせてねだる。いくら抱きつかれても、おれの両腕はぴたりと体についたまま。
「呪いが解けたら」
おれは咄嗟に口走る。
「悪い魔女に呪いをかけられて、こんな姿になってしまったのだ。本当は人間で、とてもハンサムで、しかも王子なのだ」
口から出まかせを吐き出すおれに、彼女はすうっと目を細くした。怒ったのか。ビクッと体を震わせたけど、全く違った。彼女の唇が弧を描く。笑ったのだ。
「じゃ、呪いが解けたら、一番に教えてね」
約束よ。彼女が秘め事のように囁く。
「私、その魔女さんに頼んで、もう一度あなたを野獣にしてもらうから!」
そう言って彼女はころころと鈴の鳴るように笑った。叶わないな。おれは目を閉じる。きっと根負けするんだろうっていう未来が、すぐそこに見えていた。

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